大阪高等裁判所 昭和36年(う)1357号 判決
判決理由〔抄録〕
よって、本件記録を精査し、原審において取調べた総べての証拠並びに当裁判所がなしたる本件事故現場の検証の結果を検討すると、昭和三五年一一月一〇日午後〇時三〇分頃、大阪市旭区森小路二丁目七番地の三叉路(南北に通ずる幅約八米の道路と、これに西方やや南寄りから通じている幅約五米の道路とが交っている箇所)において発生した本件交通事故は、被告人が軽自動三輪車を運転して前示南西方から三叉路に通ずる道路上を時速約一五粁で進行し、同交差点を左(北)に曲ろうとしたが、同交差点の南西角の紙屑屋の前の南北の道の西側には、同道路上に約一・三五米突き出して、高さほぼ軒下位に紙屑を梱包したものが積んであって南方の道路を見通すことができなかったので、被告人は南方から来る車を警戒するため、同交差点直前で時速を約一〇粁以下に落し、南方の道路を見通しうるところまで斜左に出て(この時同自動車の右肩は南北の道の西端より約二・三米の所にあった。)停車し、南方に振り向いた際、白崎雄次郎(当時一五歳)が南方から時速約四〇粁以上で原動機付自転車をばく進させて来て、その左腕を被告人操縦の軽三輪自動車の右側のバックミラーに接触させて、倒れようとしながら、斜右(東)に約一四・九米暴走して、同所に停車していた佐々塚功三(当時一八歳)が乗っていた軽自動二輪車に同原動機付自転車を当てて、転倒し、よって白崎は右前膊挫創、擦過傷、右腸骨皹裂骨折、右腰部打撲擦過傷の全治に約二ヶ月を要する傷害を負うたというものであることが認められるのである。本件交差点では交通整理は行われておらず、諸車がその直前において一時停車しなければならない箇所ではなかったのみならず、前示の通り南西方から来た者に取っては、その南方の見通しが妨げられるように紙屑の梱包が積んであって、ある程度交差点に突入しなければ殆んど、南方を注視できない状況であったから、被告人は南方道路を注視するため、何時にても停車しうる低速度で、南方が注視できる地点まで交差点に乗り入れて停車したのであるから、被告人が本件交差点直前で一時停車しなかったことを責めるわけにはいかないのである。本件事故は前示認定の通りであって、被告人には責められるべき過失はなく、その原因は全く、南西方道路から交差点に出てくる諸車のありうることを警戒せず、前記の如く見通しがきかない丁字路であるのに徐行もせず制限速度を超える時速四〇粁以上で原動機付自転車をばく進させて、南から北に向って同交差点を通過しようとした被害者白崎雄次郎の過失にあるものと認められるのである。原判決が、被告人は本件交差点の直前又は右側道路の見透しのきく地点において、一時停車して右側道路を注視し、付近に接近する直進車両の有無を充分確かめ、交通の安全を確認の上進行するなど、事故を未然に防止しなければならない業務上の注意義務があるのに、これを怠ったものと認定して、被告人を業務上過失傷害罪に問擬したのは判決に影響を及ぼす事実誤認があるものといわなければならない。